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「なんだ、さつぱり判らんぞう」
「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」
「どうしなさつた」
云ひながら、道平はこれ又大いに気にかけていたことがあつさり片づけられてしまつたので、いくらか不服でもあり、手持無沙汰でもあるといつた様子だつた。
「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」
男は、びつくりしたやうに房一を見た。
房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
病人は眼を開けて、しばらくこの息子とはちがふ医者を眺めた。軽い不審と失望の色が浮かんだやうに見えたが、すぐに閉ぢて、かすかにうなづいた。
かうして、やつとこさ初秋の爽かさがやつて来た。が又、風だ。生温い、暑さのぶり返しを思はせる蒸し蒸しした空気、雨、それから青空、微風、快い乾いた空気、――こんな風にためらひ、一寸後もどりをし、又急ぎ足で駆け、季節は人々に型通りの見込をさせまいとするかのやうに見える、がその足どりの中には何か大まかな順調さが、あの自然といふものの単純な変化が歴然と現れて来る。人間が見込を外はづされてぽかんとしている間に、いつしか十月に入り、十月も終りに近くなり、あの快い乾いた、いくらか冷えを感じさせる明あかるい空気が、毎年のことでありながらかつて一度もなかつたと思はせるほど、又一月や二月ではなく、永久につゞくと思はれるほど、来る日も来る日もつゞいていた。
「先づそのうちには、町内の様子もいろいろお解りになることでせう。これでなかなか面倒なこともありましてな」
「えらい昔話が又ぶり返したんだな」
「なるほどね」